「標高3000mの出会い、そして“好き”と伝えた夜」

未分類

運命の転機

上山する数日前、飲み会の夜に、初めて彼女に会った。

長期スタッフのメンバーは、彼女を含む20代女子2人と、私を含めた“おじ”世代の男子3人。
正直、年齢差もあり、その日女子2人とは会話をした記憶がない。
どう接したらいいのかわからなかったのだと思う。


山小屋での生活は、毎日が刺激的だった。

まず驚いたのは、新人は歩いてではなく、ヘリコプターで上山すること。
登山道を5時間かけて歩く距離が、空からならたったの10分あまり。
いきなり3000mの白銀の世界に放り込まれ、心が震えた。


数日後、同期5人で山頂まで登った。
これまでソロで登ることが多かったけど、一緒に感動を分かち合えるって気持ちがいいんだなって改めて感じた。また5人で登りたいな。


彼女は、よく笑う人だった。
意識していないつもりでも、気づけば目で追っていた。

あるとき、山小屋の仕事で使うエプロンや手ぬぐいを譲り受けることに。
バンダナの色は自由に選んでよかったので、私は、いつもの青ではなく、
彼女が選びそうな茶色を手に取った。

すると彼女は、嬉しそうに青の手ぬぐいを持ち、
「私、この色にする」と言った。

「女心って、いくつになってもわからないな」
そんな風に、心の底から思った瞬間だった。


彼女が一人で休憩していた時、お菓子をほおばる横顔がふと目に入った。
「なんておいしいお菓子なの、私は世界一幸せよ」
――そう書いてあるかのような、満ち足りた笑顔だった。

そのとき、私ははっきりと気づいた。
彼女のことが、好きなんだと。


ある夜、彼女と二人きりで話す機会があった。
彼女が同じ医療職で、リハビリの仕事をしていたことを知り、
初めてなのに驚くほど自然に会話が弾んだ。

なんとなく、彼氏はいなさそう――
でも、いないでいてほしい。
そう思いながら、勇気を出して聞いた。

「彼氏、いるの?」

すると彼女は、笑顔でこう答えた。

「さっき電話で、別れたところ。」

――えっ、いたんだ。
という気持ちと、
ほんの少しの、うれしさ。


その夜、調子に乗って飲みすぎた私は、千鳥足で食堂へ。
いつものように、暗い食堂を抜けて2階へ向かおうとしていたところ椅子に座り込み
気づくと彼女に介抱されていた。

何を思ったのか、私は酔った勢いで
彼女を抱きしめて「好きだよ」と伝えていた。


次回へ続く。

コメント

タイトルとURLをコピーしました