すのこの隙間から、下界が見えた

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山小屋では日々、大量の物資が消費されます。食料や燃料を運ぶため、私たちは定期的にヘリコプターを使って荷揚げ・荷下ろし作業を行っていました。

ある日、翌日のヘリ便に備えて荷下ろしの準備をしていたときのこと。荷下ろしでは、前日に空のプロパンボンベやゴミを「もっこ」と呼ばれる網状の運搬具にまとめておきます。
こんな感じのものです👇

※画像はイメージです。

その日は男性陣総出で作業にあたっていました。私は大きなゴミ袋を3つ抱えながら歩いていたのですが、前から来た先輩を避けようと一歩横に踏み出したその瞬間──

左足に激痛が走りました。

「やってしまった…」

すのこの端を踏み外し、足首を捻ったことをすぐに悟りました。そのとき私は、足元の見えない状態で無理な姿勢をとってしまっていました。しかも履いていたのは登山靴ではなく、足首を保護しない長靴。いくつもの判断ミスが重なっていたのです。

階段に腰を下ろし、痛みに耐えながらも「これは捻挫だ。安静にしていれば回復するだろう」と思っていました。しかし翌朝、痛みは引くどころか悪化。軽く荷重をかけただけで、我慢できないほどの激痛が走りました。

「歩ける状態ではない」と判断し、支配人に相談。すると「社長にかけあってみるよ」と言ってくれ、その日のうちに私はヘリで下山させてもらえることになったのです。

スタッフに見送られながら飛び立ったヘリは、山小屋の上空を旋回。そして下界へ向かうその機内で、私は不謹慎ながらも、まるで遊園地のアトラクションのような飛行に「ちょっとラッキーかも」なんて思ってしまったのでした。

その後、整形外科を受診して告げられた診断結果は──骨折

衝撃でしたが、医師はこう言いました。

「ラッキーでしたね。転位(骨のズレ)がなかったのが一つ。もう一つは、左足だったことです。これなら自分で車の運転もできますから」

もしこの状態で自力下山を試みていたら、骨がずれて手術になっていた可能性が高かったとのこと。手術になれば、全身麻酔と金属の固定が必要。通常歩けるようになるまで6〜8週、完全に治るにはさらに2〜4週。そして職場復帰には3か月以上かかるケースもあるそうです。

私の場合は、ギプス固定で経過を見つつ、順調なら2週間後には荷重を開始、1か月ほどで歩けるようになる見込みでした。

山小屋の繁忙期は夏。7月から9月がピークです。この時期に働けないとなると、大きな痛手でした。そう考えると、ギリギリのところで運に救われたのかもしれません。

ヘリによる下山は、通常は物資搬送だけの契約です。人を乗せれば別途運賃がかかります。事故とはいえ、余計な出費を伴う判断をしてくださった社長、真摯に相談にのってくれた支配人、そして心配してくれたスタッフの皆には、心から感謝しています。

そして──山を離れているあいだ、付き合いたての彼女とは「山の上と下でのプチ遠距離恋愛」が始まりました。

……本当に、あの一歩がすべてのはじまりでした。
そして、こちらがそのときのレントゲンです──

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